サビから始まる美しいメロディーライン『あなたのポートレート』
《軽くウェーブしてる 前髪がとても素敵》――『あなたのポートレート』はそんなサビから始まる。その美しいメロディーに、僕らは一瞬で歌の世界に引きずり込まれる。これが《来生メロディー》の魅力である。
加えて、曲中で語られるストーリーは、極めて映画的。「ボート」や「帽子」というワードは、青春映画の1シーンを連想させる。こちらは、姉・えつこサンが得意とする世界。
正直、『スローモーション』と優劣つけがたい。同曲がアルバムのA面1曲目、いわゆるリード曲に選ばれたことが、そのクオリティーの高さを物語る。
アルバム『プロローグ〈序幕〉』は、全般に16歳の少女・中森明菜のフラットで素直な歌声が印象的である。等身大の少女の姿が透けて見える。セカンドシングル『少女A』以降のどこか大人びた、陰のある歌声とは一線を画す。感情表現や技巧に走っていないぶん、聴き手の創造力をかき立てる。
以前、八代亜紀さんがあるトーク番組で「歌に感情を込めない」という趣旨の話をしていた。曰く「感情を込めると、歌は歌手自身のものになる。だが、込めずに曲の世界観だけを伝えると、聴き手がそこに自分を投影する」と。
実際、銀座のクラブ歌手時代、感情を込めないで歌ったところ、ホステスたちが急に泣き出したという。