アナウンサー人生に終止符を打つまでの道のりとは、どのようなものだったのでしょうか(写真提供:photoAC)
30年間NHKに勤め、「看板アナ」とも呼ばれた内多勝康さんは、53歳を前にして退職。医療的ケア児の短期入所施設「もみじの家」のハウスマネージャーに転職し、新人としてスタートする決断をしました。安定したキャリアを捨て、経験ゼロで異業種へ転職することについて、家族や周囲から戻ってきた反応は、内多さんにとってかなり意外なものだったそうで――。

退職に迷いはなかったかとよく聞かれるけれど

退職の意志が固まるまで、悶々とするような葛藤や迷いは実はなかったです。不思議なほど決断を躊躇させるものはありませんでした。ハードルと思われたものは次々と解消され、それはまるで、「転職」という文字のジグソーパズルがきれいに完成していくようでした。

まず、「収入は大丈夫か?」。

転職を考える多くの人の関心事であろうこの問題については、NHKの退職金や新しい職場からの報酬、今後の生活費や子どもの教育費などの必要経費を洗い出して収支計算してみると、意外と「なんとかなる」ことがわかりました。

僕の場合、NHKを辞めたからといって一匹狼になって収入が途絶えるわけではありません。所属は成育の常勤職員ですから、安定したマスコミから安定した医療機関への移籍です。多少、年収は下がるものの、毎月一定の給料がいただけます。

3人いる子どもの教育費も気になるところでしたが、長男は既に社会人、2人の娘は大学生で、これからだいたい通算でいくら掛かるか見通しがつきます。不意に高額な学費が必要になるという事態を考えなくても良いという安心感がありました。

もしも子どもが小さく、今後いくら出費することになるかわからないという状況では、不安の方が勝ってしまったかもしれません。