俳句を始めてみたい人、ちょっと経験のある人にお送りするスペシャル企画です。人気の俳人・夏井いつきさんが講師となり、作句のコツを伝授。これを読めば、すぐ一句詠みたくなること請け合いです(構成=篠藤ゆり イラスト=霜田あゆ美)

●「〈タネ〉と〈季語〉の組み合わせ方」はこちら

特別ライブ授業

超・初心者である50代のA子さんと60代のB美さんが俳句に初挑戦!夏井先生の指導はいかに?

A子さんへの指導

A子 お会いできると知って、二人とも生まれて初めて俳句を作ってきました。

夏井 まずは一歩踏み出したのね。(笑)

A子 ドキドキしますが、では……。「梅雨空や猫のふっくら昼下がり」。

夏井 これはどういう句なの?

A子 雨の日の軒下に野良猫が眠っていて、その毛先にふわふわっとついた細かな水滴が輝いていたんです。何年か前に見たその光景が心に残っていて。

夏井 いま聞く限り、あなたの感動は、猫の毛の先についていた細かな水滴の美しさを発見した、ということなのよね。

A子 はい、その通りです。

夏井 でも、「ふっくら昼下がり」という余計な言葉があるばっかりに、梅雨の曇り空を背景に、雨にぬれることもなく、昼寝している猫の句のような印象になっています。あなたの感動を伝えるなら、猫の毛を描写するだけでいいのよ。

A子 確かに欲張りすぎて、肝心なところが行方不明に……! では「梅雨空に猫のうぶ毛がきらきらと」「梅雨空の眠る猫の毛きらきらと」ではどうでしょうか。

夏井 うん、最初の句より、言いたいことに近づいてきたかな。「梅雨空」が雨雲に覆われた空のことだから、「きらきら」が水滴だと伝わりにくいのが惜しいよね。

A子 なるほど。季語がおろそかになっていました。

夏井 本当に自分が感動したことはなんだったのか、自分の中で明確にする必要があります。何かを捨てて、そこにフォーカスするといいですよ。俳句にしたかったことが、ちゃんと伝わっているかを第一に考えて、再チャレンジしてみてください。

A子 がんばります!