貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第13回は「ドラマ『悪女』(ワル)を観て思う事」です。
大企業の現実、人間模様やその葛藤を描く名作
26歳になったころだろうか。周囲で結婚ラッシュやベビーラッシュが始まった。
結婚や出産だけではない。転職にUターン。社会人生活において初めての転換期を迎えたのだ。
大学を卒業して就職した友人は、妊娠を機に仕事を辞めた。結婚した女友達はみな名字を夫の姓に変えた。大企業で働く婚活中の友人は、「結婚したら今の働き方は続けられないんだろうな」と言いながら遠くを見た。
私は大学の卒論で、女性が妊娠出産後に正社員を継続する要因について書いた。
そこで、多くの女性が自分の意思に反して仕事を諦めざるを得ない現状、そして日本の男性の家事や育児にかける時間が、諸外国と比較してとびぬけて少ないことを知って、とても重い気持ちになった。
時代は令和になったが、女性を取り巻く環境は、意外と変わっていないところが多い。
国や企業は揃って管理職の女性の割合を増やすこと、育休や産休を取得しやすくすることなどを推進している《風》を装っているけれど、現実はどうだろうか。
ドラマ『悪女』(ワル)は、「働き方改革」や「女性活躍推進」というスローガンを標榜するとある大企業の現実、欺瞞、昭和な体質とそれを脱しようとする人との摩擦や葛藤などを正面から描く名作だ。
主人公の田中麻理鈴(今田美桜)は大企業オウミに入社するも、絶対に出世できないというお払い箱、備品管理課に配属される。しかしそこで元エリート社員ながら、とあるトラブルで左遷された峰岸雪(江口のりこ)と出会う。峰岸は裏で専務と繋がっており、会社の改革を画策するのだが、麻理鈴の何事にも臆さない《クレイジー》さを見込み、改革の同志に誘うのである。