とにかく社員とはうまくやり、お客さんには愛想よく

展示会では、企業がブースを出し、新商品をPRする。
そこに派遣も1人か2人ずつ入ってサポートに回る。
暇な時間帯があると、社員が話しかけてくることがある。
そこで、どんどん距離を詰められ、ぴっとり張り付くように体を寄せられ延々と話し込まれる。

こういう時、派遣は無力だ。数日一緒に仕事をする、しかも圧倒的に立場が上の社員とはうまくやらなければならない。
決して愛想よく振る舞いはしないが、かといって無下にもできないため適当に話を合わせる。すると突然相手が切り出した。

「今日、終わったら時間ないかな?」

一瞬意味がわからなかった。固まってしまい見上げると、「え、あ!いや、聞いただけだよ~」と笑っている。
いや、今日会ったばかりで、仕事を一緒にするだけの仲。しかも、相手は仲良くなったつもりかもしないが、こちらはまったく心を開いていない。相手はどう見ても20歳は年上の男性。
しつこく誘われることはなかったけれど、もし強く誘われていたら、私は断り切れていただろうか。

また、ティッシュ配りをしていた時。人の流れが多く、目まぐるしい。
前方から若い男性グループが歩いてくる。
すると、一人が前に出て、私の隣にきて、「ハイ・チーズ!」と言って自撮りをしてきた。呆気にとられていると、そのまま人の海に紛れてどこかへいってしまった。こういう時、いったいどうすればいいのだろう。

いつも、自分が今されていることをとっさには理解できない。
特にまだ10代、ハタチそこらだった私は、ただただお客さんに愛想よくしなければ、という使命感で必死に耐えることしかできなかった。

(写真提供◎写真AC)