(写真提供◎ヒオカさん 以下すべて)
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第16回は「女として見られるということ」です。

何かを握らされ、手を開くと…

大学生の時からアルバイトと並行して派遣で働いていた。
例えばスーパーでの試食販売や、展示会での社員の補助など。
1日から数日だけ現場に行き、接客をする。

スーパーの試食販売では、毎回違う現場に行き、売り場の一角に机を出して試食を配る。
お客さんから見れば常駐のスタッフに見えるため、アレの棚はどこ?など声をかけられることも多い。試食してもらい、お話しして購買につなげるのが仕事のため、必然的にお客さんとの関わりも濃くなる。

ある時、中年の男性が机に近づいてきた。
取り留めもない世間話をされ、笑顔で相槌を打つ。しかし、商品を買う様子もなく、なかなか離れない。すると、「これ、古い外国の通貨なんだ」と、手に何かを握り、差し出してくる。反応に困っていると、腕を掴まれ、引っ張られた。何かを握らされ、手を開くと、古びたコインが乗っている。その後もなかなか離れず、ひとしきり話したいことを話して去っていった。

またある時、突然ニヤニヤしながら声の大きな初老の男性がやってきたかと思ったら、いきなり私の耳元に口を近づけ、「あんたは××なドレスが似合う、来てほしい」と言ってきた。そして立て続けに卑猥なことを言ってくる。
顔がひきつって、うまく反応できない。

(写真提供◎写真AC)

こういう時、派遣の立場は本当に弱い。
店の従業員ではなく、あくまでその日はじめてきたよそ者。
だから誰も助けてはくれないし、助けを求めづらい。
絡まれていても、みな何も見えないように過ぎ去っていく。
さらに、もしもお客さんと揉めたら。因縁を付けられ、クレームでも入れられたらと思うとこわいのだ。

実際、客から従業員にクレームが入り、それを従業員が派遣会社に連絡して、注意された派遣もたくさんいる。派遣会社の「社員」は現場にはいないため、店側、つまり取引先からクレームが入ればそれを信じてしまう。
店からも派遣会社からも守ってなどもらえない。
派遣はそんな宙ぶらりんな存在なのである。