タエ子として届けたものが返ってくる

それだけ『おもひでぽろぽろ』が印象的で、たくさんの人たちに届く心に残る映画だったんだなとあらためて実感しました。スタジオジブリの作品の中では、アドベンチャー要素があるわけではなく、リアリティがあるものですし、可愛いアニメーションとは毛色の違うものだと思うんです。

27歳のタエ子ちゃんは東京で働きながらひとり暮らしをしていて、休暇に山形の義兄の農家を訪ねて紅花の魅力を知りますが、当時私も同世代だったものの、彼女と自分は違うと感じていました。タエ子ちゃんは思い悩んで山形に行き何かを感じて、いろいろな回想をしながら、自分を見つけていきます。あの頃の私はタエ子ちゃんと同じ目線ではなかったと思っていましたが、人生を先に進んだ今は、それぞれの場所で自分探しをしていたお互いを微笑ましく思えますね。

この映画は海外でもたくさんの人たちの心に響いているようです。イギリスの家のガーデナーをやってくれているフランス人の奥様とブラジル人のご主人のご夫妻がいるのですが、日本が大好きでアニメーションではジブリファンでもあって。お土産に緑茶を持って行ったり、家の作業をしてくれた後に緑茶を出すと「本当においしい」と喜んでくれたり。

ある日「美樹、あなた映画の声をやっていたでしょう!?」と言ってきたことがあって。ふたりで『おもひでぽろぽろ』を観ていたら、クレジットに私の名前が出ていたから驚いたということでした(笑)。草花が大好きなガーデナーのふたりには、紅花という花や植物をずっと大切に育てていく人たちの話を観て、心にひっかかるものがたくさんあったようです。こうして人に届いたものが自分に返ってきて、何かを知る。そういうことがこの映画にはたくさんあって、年月を重ねていくごとに、私とタエ子ちゃんの距離を縮めてくれました。

だからこそ、今回の『紅花の守人』でも、本当は私ではなく、みなさんタエ子ちゃんにナビゲーションしてほしいだろうなと(笑)。私は紅花が鮮やかな色を作ることは知っていたつもりでしたが、実はこんなにも長い歴史の中で育まれて、ものすごく愛情と努力と労力を使って、これから先に繋げていこうとみなさん苦心していらっしゃることは初めて知りました。そういうふうに作られているものが、私たちの身の回りにあることって、特別なことだったのだなと改めて感じています。

撮影中の佐藤広一監督(写真左)(C)映画「紅花の守人」製作委員会