それにしても、ひと昔前の映画の撮影は命がけではなかったろうか。たとえば黒澤明の『乱』にしても、小林正樹の『人間の條件』にしても。
――そうですよ、あのころの黒澤さん、小林さんにしても、出る役者は命がけの現場です。
『乱』のときは、城全体を燃え上がらせて、焼け落ちる瞬間スレスレに僕が城から出てくるとかね。馬一つ乗るのも芸のうちで、落馬の危険を冒してもちゃんと乗りこなさなきゃいけない。
『人間の條件』ではほんとに顔が膨れ上がるまで上官の兵隊たちからボカボカ殴られるとか、最後に死ぬ場面では1週間で5キロ痩せろと言われて、酒だけは飲ませてくれるんですが、食べさせない、眠らせない。
それでラストシーン。倒れた僕の上に本物の雪が降り積もって、小山のようになるまでずっと撮影が続くんですから、もう凍死寸前でしたよ。今はそんな映画作りをしてるところはないだろうと思いますよね。
とにかく黒澤さんの現場は喚き散らしで、小林さんは喚かないけど「はい、もう一度」ですから。ワンカットに5日かかったりする。今はそんなこと、とてもやってられません。