学問をやろう。見えない世界を見に行こう

ぼおっと図書館に佇む自分について自伝的な注釈を入れるのならば、「歴史学とは物語ではなく科学である」と気付いた瞬間だった――とでも表せようが、当時の自分には科学と言い表すまでの思いつきが存在しなかった。ただオロオロと、私の好きだった歴史はどこに行ってしまったのだろう、とたじろぐばかりの時間であった。

引き裂かれた気持ちがした。歴史が得意で大好きだと公言しながら生きてきたのに、私が想定していた物語としての歴史は、実は学問ではなかったのだ。

途方に暮れた。学問というものから拒絶されたような心地がした。

でも、それでも前を向くことにした。自分の人生において学問をやろうということはすでに心に決めていた。

ならば勉強するまでだ。

こうして自分は、いったん遠ざかってしまったキャンパスにそろそろと足を向けた。

学問をやろう。講義をたくさん受けてみよう。見えない世界を見に行こう。

再び、私の心に小さな灯がともった。

※本稿は、『歴史学者という病』 (講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

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