「こんなのオレが好きな歴史じゃない!」

手始めにわが半生を振り返った。文字を覚えてから浴びるようにむさぼり読んだ、歴史読本や歴史小説の物量を思い返した。

東京大学史料編纂所の仕事部屋(写真提供:講談社)

「物語としての歴史」の知識であれば誰にも負けない自信があった。しかし大学に進学したあたりで薄々と気付いていたのだが、「学問としての歴史」というのは、どうやら物語のことではないようだった。

真相を確かめるべく、私は図書館に赴いた。

入門と銘打たれた歴史学の書籍を数冊抜き取ったのだが、なじみ深い加藤清正の虎退治も、豊臣秀吉の出世物語も出てこない。ない、ない、ない……いわゆる血湧き肉躍る、偉人の物語などは何ページめくろうとも見つからない。

私が手にした入門書は、たとえば当時の潮流を強烈に示して、唯物史観に則った「生産構造について」みたいな無機質な論述が延々と続くばかりであった。

「こんなのオレが好きな歴史じゃない!」。

心の底からそう叫びたかった。