恐怖がある間は会話もできない

離婚が成立していること、1年以上遺棄(お金などの支援を一切受けていないこと)が条件。松本は離婚調停で、別居中に婚姻費用分担請求を起こしており、それに基づいて婚姻費用をもらっているので、児童扶養手当はもらえないという。

児童扶養手当をもらうには、もう1つ方法があった。夫からDVを受けていると裁判所が証明書を発行すれば支払われるのだが、そこには大きなハードルがあった。

「相手と会って、相手のDVを認めさせる話し合いが必要なんです。それは私にとってリスクがあります。元夫が逆上して何をするかわからない、その恐怖がある間は、会話もできない。話したくてもできないのです」

モラハラされてDVを受けていた人の怖さを、裁判所や行政は知らないのか。女性の側がどれだけ恐怖を持っているのか。母子支援施設に入るときにはきちんとした審査を受けて入っているのに、その認定ができないのはなぜなのか。

「私はひとり親であっても、両親がそろっている家のように、2人の子をきちんと育てようとしている。教育資金になるかもしれない児童扶養手当は、子どもの将来のために本当に必要なものです。早く認定してほしいです」

このときは母子3人で楽しく生活をしているが、元夫とは面会交流をめぐって対立が続く。夫は子どもに固執するので、離婚に決着はついていない。

一度、松本はたまたま歩いていて元夫と出くわしてしまったことがある。松本側の弁護士が「シェルター」という言葉を思わず口に出してしまったことで、彼は近隣の母子寮を自転車で探していたのだった。いつまでたっても、その恐怖に終わりはない。

 

※本稿は、『コロナと女性の貧困2020-2022――サバイブする彼女たちの声を聞いた』(著:樋田 敦子/大和書房)の一部を再編集したものです。

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