「私が思ったことをぶつける。それに対する主人の寄り添い方は『そうだね』ではなくて、『前を向こう』というふうにしてくれる。」(堀さん)(撮影:鈴木慶子/写真提供:ビジネス社)

清水 「許して終わりにしよう」って思えれば、そこから自分自身も自由になれます。とはいえ、そこまで簡単なことではないですよね。

 そうですね。ふとしたときに、やはり今でも怒りの感情は湧き上がってきます。

清水 でも、怒りは自分を守るための感情でとても大切なんです。

これは一般的に言われていることですが、実は悲しみや怒りというのは、心の傷を癒やす力があるんです。

どうしても前向きになれず、心が怒りでいっぱいになる時間というのは、「こうあってほしい」という自分の期待通りに現実がいかなかったことと向き合うために必要なのです。前向きな気持ちが少し出てくるために必要な期間とも言えるんです。もちろん泣いたり怒ったりするにはエネルギーが必要ですし、疲れることです。それでも、決して無駄なプロセスではないんですよ。

 私が思ったことをぶつける。それに対する主人の寄り添い方は「そうだね」ではなくて、「前を向こう」というふうにしてくれる。私の場合は、悲しみをぶつけた主人が前を向かせてくれました。私の怒りが爆発したときなど、止まらない怒りを、違うところに目を向けるようにコントロールしてくれていたのかもしれません。


※本稿は、『今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)の一部を再編集したものです。


今はつらくても、きっと前を向ける 人生に新しい光が射す「キャンサーギフト」』(著:堀ちえみ・清水研/ビジネス社)

『絶望の底に沈んでも、いつかきっと立ち上がれる。』ステージ4の舌がんと宣告を受け、舌の6割以上を切除する大手術を受けた堀ちえみ。医療チームのおかげで一命はとりとめたものの、歌手・女優として大事な言葉に障がいが残ってしまい、一時は絶望に沈む。しかし、家族や多くの人々の励ましに支えられ、徐々に気持ちは新しい目標へと向かっていく。絶望から希望へ、その心の軌跡を、がん専門の精神科医・清水研が読み解く。不安や悩みを抱え、苦しんでいるすべての人に。