西条くんとのバイト時代

25年ほど前、西条君と一緒に深夜のバイトをしていた。怪しげな、褒められたバイトではない。明け方、新大久保でバイトを終え、立ち食い蕎麦を食べてJRに乗り、あまりに疲れて寝てしまい自宅の最寄の中野駅で起きられず、昼前まで電車に乗っていた。
「こんなんで本当に売れるのかい」と思いながら重い足をひきずって帰宅しシャワーを浴び、またバイトに向かう…という日々を思い出した。

「懐かしいね!わたし、むちゃくちゃ売れたかったから。きっと誰よりも売れたかった」

「青木さんあっという間に売れていったよね」

本連載から生まれた青木さんの著書『母』

西条くんは、同じ事務所の芸人で、ウマがあったのか縁があったのか、売れる前もテレビに出てからも、同じ時間をたくさん過ごした。西条くんは、お笑いが大好きで芸人になり、だけど売れなかった。いや続けていたら売れたのかもしれないが、ある時、表に出ることをやめて裏方にいった。

「西条くん、楽しそうだよね、今」
「すごく、楽しい」

「出たいな、と思う時はないの?」
「全くないよ」

「そう」
「元々ない、苦手だから」

そうだった。この人は芸人の頃から、表に出ることを喜んではいなかった。