トークショーの会場近く(写真提供◎ヒオカさん 以下同)
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第25回は「トークショーとサイン会について」です。

『分断にお湯をかけたら溶けるかな』

2022年11月10日に、デビュー作『死にそうだけど生きてます』(CCCメディアハウス)と、小説家柚木麻子さんの初のエッセイ『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)のW刊行記念トークショーを開催した。イベントのタイトルは『分断にお湯をかけたら溶けるかな』

『死にそうだけど生きてます』(著:ヒオカ/CCCメディアハウス)

柚木さんのご著書に、「とりあえず、この沸いたばかりのお湯をぶっかけよう」というフレーズが出てくる。それにかけて、うんざりするようなこの世の分断にもお湯をぶっかけるぜ!的なニュアンスと、沸いたばかりのお湯くらいの熱いトークを届けるぞ、という意思を込めた。

「デビュー作」は誰にとっても人生で1冊だけ。その刊行イベントだから、やはり私の作家人生にとって特別なものに違いなかった。しかもそれを大好きな、そして尊敬する柚木さんとご一緒できるのだ。

刊行記念イベントは大阪と東京での全2回だった。西のアルテイシアさん、東の柚木さんという作家界を代表するおしゃべりスト(芸人さんと張り合えるトークスキルをお持ち)とできたのは、振り返っても幸運だった。

会場の最寄り駅、下北沢はとても近代的で綺麗だった

本を1冊出すというのは、本当にかなり力がいる。途方もない(ってほどでもないけど)行程もかかる。そうやってやっと刊行できたデビュー作を祝う記念すべきイベントに、ここまでくるのにお世話になった方々を呼びたい!と、何名かに連絡してきてもらえることにもなった。

しかも、以前取材した尊敬する教授の方をダメもとでお誘いしたら、なんとオンラインで参加してくださるという。また、海外からもオンライン参加してくれた読者もいた。

楽しみであると同時に、当日はなんだかとても緊張した。でも、そんな私の隣で、柚木さんは歴12年の落ち着きと風格をただよわせ、どっしりとかまえつつ、近所のお友達の家に来たくらいの感じでごくごく自然にそこに座っている。そして、緊張し、いろいろとあわただしく準備する私をやたらとひたすら心配してくれた。

「もう!ヒオカさんは動き過ぎ!1回お茶でも飲んで、落ち着いて」

なんせ人生初のイベントだもの。どうやら肩に力が入りすぎていたようだ。

トークショーは進行役はなし。タイムスケジュールなんかもなく、とにかく2人でしゃべくるというもの。

話す内容は一応打ち合わせしましょうと申し出たが、決めなくても大丈夫だよ、と柚木さんは言った。その言葉には確固たる根拠がある。柚木さんは稀代のおしゃべりスト。何をしゃべっても、その場にいる人を夢中にさせてしまう力を持っている。(とはいいつつ、一応本当にざっくり事前にこの話題は外せないね!とかは話した)