私が認知症の母の介護をする中で困ったり戸惑ったりしたことは、同じような境遇の方も経験しているでしょう。そこで、数々の悩み、困り事にどう対応したらよいのかもお伝えします。答えてくれるのは、老人ホームの紹介事業を展開する「あいらいふ」の相談員、平田由紀子さん。ケアマネジャーの資格を持ち、親の介護経験があり、介護する側に通じる平田さんが伴走して下さいます。
Q 二人暮らしの母との生活の中で「100回言った」「100回聞いた」が最近の定番。認知症だから仕方ないとは頭では分かっていますが、怒りが抑えられません。どのように折り合いをつければいいのでしょうか。「100回言った」の一つが、「コンビニで千切りキャベツや生ハムやカニカマとか食べないものを買ってこないで」です。たかがと笑われるかもしれませんが、イラつきます。
A 家族、ケアマネジャー、ヘルパーはそれぞれ立場が違いますが、問題に直面した時の解決方法は同じ、客観的に介護する人を見ることです。
母子関係ですと、母親がしっかりしていた時の記憶や、母親に叱られた時の記憶があるので、現在とのギャップをなかなか認められません。「昔はちゃんとしていたのになぜ今はできないの」「昔は、このことでそっちが怒ったのに」と。そして、介護する子供はストレスがたまり、怒ってしまいます。実は、介護問題で事件に至るのは、実の親子が多いのです。
そうならないためにも「客観的になる」ことが重要です。昔と比較するのではなく、今の母親だけを見るのです。かなり難しく、私も暴言を吐いてしまったことがあります 。しかし、落ち着いて「認知症の誰誰さん」ととらえ、過去と比べるのではなく、現在だけをみるのです。なぜこのようなことをするのかに思いを致すことがでるようになります。「なぜ」が分かれば対応も変えられるでしょう。
千切りキャベツや赤いものを買ってくることについても「なぜ」を探ってみてください。「目がよく見えないから目立つものを買う」とか「娘が好きだと思っているから買う」とか理由が分かれば、対処方法も開けます。
買い物など役割があるのは認知症の方にとって一番、うれしいことです。だから、必要なものを買ってきてもらうために工夫をしてみてください。買ってきて欲しいものを大きめのボードに書いてカバンにぶら下げたり、お財布のお金を出す時に必ず目に入るところにメモを入れたりしたらいかがでしょうか。
最近は、コンビニエンストアも高齢者の見守りに力を入れています。コンビニの人に状況を説明し「お金の払い間違いがあるかもしれないので」などと協力を求めるのも一つの方法です。「メモにあるものを買いましたか」とさりげなく声をかけてくれるかもしれません。徘徊行為が出てきた時には早期発見につながります。コンビニに限らず、地域の協力を求めることは重要です。
「100回」問題。確かに、認知症の人に対して否定したり叱ったりしてはいけないとされています。しかし、過去にも親子げんかはいろいろあったでしょうから、「100回」けんかは絶対いけないとは言えません。普通の親子げんかのレベルであれば許されるのではないかと思います。そうでないと介護する側の精神がもちません。ただ、鬼の形相で言うと、言われた側には内容ではなく表情や声色がインプットされてしまいます。できないことを指摘され落ち込み、うつ病を併発する人もいるので要注意。冗談っぽく言うなど、そこは気を付けてください。私の相談者で「にこやかに毒を吐く」という方もおられました。(笑)
喧嘩したり言ってはいけない言葉を発したりして後悔し、落ち込んだ時は、気持ちを切り替えてお母様が楽しめる事を一緒にやってみたり些細な事でも感謝の言葉を伝えてみることも良いのではないかと思います。