「言葉」そのものが最大のバイアス

私たち人間の最大の知的な武器とも言ってよい言葉そのものも抽象化の産物であることはここまで述べてきた通りですが、これがまさに最大のバイアスとなって私たちの前に立ちはだかっています。

具体的な事象を言葉という形で抽象化して表現したとたんにそれがバイアスとなって、「ありのまま」の状態から一気にあるフィルターを通して見たものになってしまうのです。皮肉なことにコミュニケーションの最大の武器が同時に最大の障害であるバイアスにもなってしまうのです。

そもそもこれは抽象化という人間の知的機能の最大の強みでもあり弱みでもあるのですが、問題はこのような状況を認識しているかどうかということです。往々にして私たちはこのような言葉が持ついわば「構造的欠陥」に気づかぬままに日々これを使っています。

そのために無用な軋轢が生まれているのです。ここでも問題は「自分の視野が狭くなっていてほんの一部分しか見ていないことに気づかないこと」なのです。

 

※本稿は、『見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出』(著:細谷 功/中公新書ラクレ)

本書は、ベストセラー『地頭力を鍛える』によって広く認知される「地頭力」や「アナロジー思考」、「Why型思考」等の思考力に関する著作で読者を獲得してきた細谷氏の最新書き下ろし。著者が思考力を鍛えるために用いる「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。いくつもの事例を読み進めることで、これまで見えなくなっていた視野が広がり、日々のコミュニケーションや仕事の計画等に関する悩みを解消するとともに、未来に向けて将来像を描くためのツールになる1冊です。