あらゆることを体験して死ねるかどうか

一人の人の生涯が成功だったかどうかということは、私の場合、あらゆることを体験して死ねるかどうかということと同義語に近い。

もっとも、異常な死は体験したくない。しかし尋常な最期はそれを受け入れるべきだろう。

愛されることもすばらしいが、失恋も大切だ。お金がたくさんあることも、けちをしなければならないという必然性も、共に人間的なことである。子供には頼られることも嫌われることも、共に感情の貴重な体験だ。

※本稿は、『新装・改訂 六十歳からの人生』(興陽館)の一部を再編集したものです。


新装・改訂 六十歳からの人生』(著:曽野綾子/興陽館)

曽野綾子さんももう九十一歳に。六十代、七十代、八十代、九十代と老年期、移り変わる体調、暮らし、人づき合いへの対処法とは。六十歳以後、人はいかに生きたらいいのか。曽野綾子さんが伝える六十歳からの生き方。