30代前半、着物姿の曽野さん。(1963年9月16日撮影、本社写真部)

 

「生活は、こんなものでいいのよ」

気がついてみると、最近、友人たちの間で、自宅でご飯を出してもらうことがうんと減った。

その理由は、私の年になると、もう後片付けのお皿の数がふえるのがいやになるのだ。しかし知人、友人の家でご飯を食べさせてもらうことは、たとえイワシの丸干しとお味噌汁だけでも実に楽しいぜいたくなことだ。

2017年2月に夫が亡くなる頃、私は我が家の台所に小さな改造の手を入れていた。7、8人はそこでご飯を食べられるように、円型のテーブルを作ってもらったのである。くるりと後ろを向けば、流しまで1.5メートル。別の席は食器戸棚まで1メートル。

我が家の台所では少なくとも、すぐ温かいお茶はいれられる。コーヒー沸かしはありふれたもので、粉もアメリカ製の庶民的なブランドだけれど、煩わしいことを言わない人には、いつでも沸かして出せる。

あまり豊かとは言えないお菓子をすべてプールしておく棚も丸見えだ。

「生活は、こんなものでいいのよ」

と私はずっと言ってきた。