心血管疾患のリスクの低減や寿命の延伸など、サウナはさまざまな健康上の利点と相関する(提供:photoAC)

熱ショックたんぱく質がもたらす効果

熱ショックタンパク質は他のタンパク質を助ける“スーパーヒーロー・タンパク質”と見なすことができる。細胞が何らかのストレス要因によってダメージを受けると、タンパク質の多くは形が崩れる。すると熱ショックタンパク質が登場して、細胞のゴミにならないよう形状や機能の回復を助けるのだ。

興味深いことに、熱ショックタンパク質の名前の由来である熱ショックを経験するのは実験動物だけではない。それはサウナという形で北欧文化に溶け込んでいる。サウナ発祥の地であるフィンランドから、サウナに関する研究が続々と届いている。

これらの研究により、心血管疾患のリスクの低減や寿命の延伸など、サウナはさまざまな健康上の利点と相関することがわかっている。さらには血圧の低下など、他の有益な効果もある。おそらく熱ショックタンパク質はこうした恩恵の一因になっているのだろう(しかしサウナに関しては、覚えておくべき小さな「例外」がある。子どもを持ちたいと思う男性は、サウナであまり長い時間を過ごさない方がよい。長時間、高温にさらされると、精子の質が悪化するからだ。同じ理由から、熱い湯に長く浸かったり、膝にラップトップ・コンピュータを載せて座ったりすることも良い考えとは言えない)。

サウナに加えて、北欧文化のもう1つの重要な要素は、寒中水泳だ。この2つはセットになっていて、一般にサウナと寒中水泳を交互に繰り返す。寒中水泳の効果についてのデータはサウナに関するものほどには揃っていない。しかし、長期的に健康にプラスになっていることは容易に想像がつく。

一例として、寒中水泳は「褐色脂肪」を活性化する。褐色脂肪は通常の脂肪とは逆の働きをする。エネルギーを蓄えるのではなく、エネルギーを燃やして体を温めるのだ。

興味深いことに、多くの長命の種では、褐色脂肪細胞が活発である。証拠になるかどうかわからないが、わたしが知っている寒中水泳のファンたちは、泳ぐようになってからエネルギッシュになり、病気にかかりにくくなり、総じて幸福な気分になった、と言う。

 

※本稿は、『寿命ハック――死なない細胞、老いない身体』(新潮社)の一部を再編集したものです。


『寿命ハック――死なない細胞、老いない身体』(著:ニクラス・ブレンボー 、訳:野中香方子/新潮社)

近年、「老化は治療可能な病気」とみなす研究者は多く、アンチエイジングから不死に至るまで研究は隆盛を極める。実際、自然界には400年近く生きるサメや、根系が1万4000年以上生き続ける樹木、果ては若返るクラゲも存在する。永年の夢だったはずの「不老不死」は今、いったいどこまで実現可能になっているのか。研究の最先端と未来を、ユーモアを交えて分かりやすく解説。実践的アドバイスも紹介する。