『ジキル&ハイド』も、善と悪の物語

今度、僕が出演させていただくミュージカル『ジキル&ハイド』も、善と悪の物語。僕が演じるのは、ジキルが勤める病院の理事であり、ジキルの婚約者エマの父親でもある、ダンヴァース・カルー卿。カルー卿はジキルを応援し、信頼してもいるけれど、「人間の善悪を分離する薬」の人体実験をしたいという彼の要望には慎重的な姿勢を見せている。善と悪、白と黒の狭間にいるグレーな人物ととらえています。これから稽古を重ねながら、彼の揺れ動く心というものが見えてくればと思っています。とはいえ、意気込んでうまくいったことはあまりないので(笑)。リラックスして、皆さんと芝居を作っていけたらと思います。

今でこそ、ドラマや映画にも出演させていただいていますが、僕はもともと舞台人。高校を卒業して、この肉体を使う職業につきたいと思い、役者を志しました。スポーツなどで競うというよりも、僕は身体で表現するということをやってみたいと思ったんですね。栃木県の出身なのですが、身近に役者を職業にしている人はいませんでしたから、父には「何を言っているんだ。周りを見てみろ」と呆れられました。それでも「役者になってやる」と反対を押し切って上京。当時は、僕も意気込んでいたんですね(笑)。結果、運よく劇団四季に入ることができました。

それから25年間コツコツと頑張って、40歳半ばを迎えた頃に、そろそろ役者として次のステージに行きたいと考え、2009年に四季を退団。舞台や、四季の時は契約上出演できなかった映画などにも出させてもらうようになったんです。
それまで舞台をメインに活動してきた僕にとって、『タイタニック』の舞台を見に来ていた三谷さんの目に留まり、大河ドラマ『真田丸』で真田信尹を演じさせてもらったことは、一つの転機となりました。僕はこの作品がテレビドラマ初出演。舞台の世界とはまた異なる映像の世界では学ぶことも多く、刺激を受けました。

今回、ジキルを演じるWキャストの石丸幹二さん、柿澤勇人君は、僕と同じ劇団四季出身。マルちゃん……石丸君とは何度も同じ舞台に立っていますし、僕が四季をやめてからも互いの舞台を観に行ったり、同じ劇場の別の階で舞台をやった時などに話す機会もあったりしました。柿澤君は鎌倉殿で一緒だったんで、「舞台も一緒だね」と話して。とはいえ、劇団四季出身だからといって特に仲間意識が……ということはないですね。一つの舞台が始まったら、新人もベテランも関係なく役者みんなが同じスタートラインに立ってそこから一歩を踏み出す。年齢やキャリアを超えた仲間でひとつのものを作り上げていく作業が、今から楽しみです。

大河ドラマのために一昨年からずっと突っ走ってきましたが、それもようやく終わり、今は束の間の小休止を迎えています。とはいえ、何かをしようと思うと疲れてしまうし、コロナ禍で体調を崩しても……と思うと自制が働いてしまって。結局、家で愛犬と一緒にリラックスして過ごすことが多いですね。

撮影◎本社・奥西義和