腫らした目をこすって試合に向かった

そういえば瑛介が野球で泣いたところを、今まで一度も見たことがなかった。勝っても負けても、悔しくても嬉しくても、瑛介は泣かない。
生まれた時から3歳くらいまでは、まるで私の体から一定離れるとセンサーが付いているように泣く子だったが、物心ついた頃からは悔しいほど泣かなかった。

その瑛介が、母が運転で前しか向けない状況で、後ろでおーん、おーん!と泣いている。
私は黙ってルームミラーに映る後部座席をちょいちょい気にした。
車の中なので思い切り声をあげて泣いている。

「オレだって、一生懸命やってんだよお」
『元木の息子だ、ジュニアだって言われて…』
『オレだって必死にやってんだよぉ!』

こんなにわかりやすい、泣く理由があるだろうか。
私はひたすらハンドルを握って、通ったことのない青梅市への道をナビで必死に追っていた。だが、瑛介の泣き声は止まない。

母も、泣きたかった。
訳はわかっている。でもどれ一つとして、どうにかしてやれるものがない。
乗り越えてほしいけれど、ここでこんな思いをさせて強くなる必要ある?いや、やっぱり乗り越えろ。乗り越えてくれ!
母はとにかく、青梅の試合会場まで無事に瑛介を送り届けるよ。頑張れ瑛介!一体ここはどこなんだろう…???

まるで外国のように遠く感じた移動の末、なんとか目的地に到着した。
顔を洗ったはずのない瑛介の目の下には、アイブラックのかすかな跡さえ残っていなかった。
若干腫らしたような目をこすって、瑛介はまたジャイアンツジュニアのユニフォームに着替えて試合に向かった。
一進一退。そう簡単にバッティングは上向くわけではないが、さっきの大泣きのあとにしては、見事なスイッチングの息子だと感心した。