自己保身しか考えていない不倫相手の男性

しばらくして、別の保育所に再就職したが、不倫相手がなかなか離婚してくれないため、精神的に不安定な状態が続いた。月経前は一層不安定になってイライラするということで、私の外来を受診した。

Hさんは中絶後も不倫関係を続けていたものの、怒りを抑えられないこともあったようで、

「(不倫相手の男性が)中絶のことで謝りもせず、悪気も全然なさそうな態度なので、腹が立って、『奥さんに全部ぶちまけてやる』と私が騒いだこともあるんです。でも、『お前は、俺が既婚者とわかっていながら関係を続けているので、そんなことをすれば、妻から慰謝料請求の裁判を起こされる。そしたら、お前は負けて払わないといけなくなる』と言われたんです」

と話した。

この「慰謝料請求の裁判」に関する話は、Hさんに対する一種の脅(おど)しのように聞こえなくもない。

たしかに、配偶者の不倫相手に対して慰謝料を請求することは法的に可能らしい。

だが、そのことをHさんの不倫相手が持ち出した背景には、Hさんが自分の妻に不倫関係をばらしたら困るので、それを阻止したいという意図があったように見える。

つまり、自己保身しか考えていないわけで、不倫相手の女性に中絶させ、その心身を傷つけたことを悪いとは思っていない。だからこそ、謝らないのである。

※本稿は、『自己正当化という病』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


自己正当化という病』(著:片田珠美/祥伝社新書)

うまくいかないことがあるたびに「私は悪くない」と主張し、他人や環境のせいにする。やがて、周囲から白い目で見られるようになり、自分を取り巻く状況が次第に悪化していく……。このような「自己正当化という病」が蔓延している。精神科医として長年臨床に携わってきた著者が「自分が悪いとは思わない人」の思考回路と精神構造を分析。豊富な具体例を紹介しながら、根底に潜む強い自己愛、彼らを生み出してしまった社会的な背景を解剖する。この「病」の深刻さに読者の方が一刻も早く気づき、わが身を守れるように――。