(出典:『伝説の校長講話――渋幕・渋渋は何を大切にしているのか』より)
「共学トップ」の超進学校・「渋幕」(渋谷教育学園幕張中学高校)と「渋渋」(同渋谷中学高校)。渋幕創設からわずか十数年で千葉県でトップの進学校に躍進させた田村哲夫氏は現在、同理事長・学園長を務めるかたわら、中1から高3までの生徒に向けた「校長講話」(現・学園長講話)を半世紀近く続けており、その内容は大人の視野も広げてくれる。学園に入学した生徒に向けて、田村氏が最初に行う講話の内容とは――。同校の取材を続けてきた読売新聞の古沢由紀子記者がガイド役を務める。

進学実績を一気に伸ばした「シブマクの奇跡」

「シブシブ」「シブマク」と聞いて、すぐに「あの超進学校の……」と分かる人は、首都圏在住の比較的若い世代、もしくは、中学・高校受験にちょっと詳しい人かもしれない。「公立王国」と言われた千葉県で、渋谷教育学園の田村哲夫理事長が創設した渋谷幕張中学高校は、わずか十数年で東大合格者が県内トップになり、教育関係者に「シブマクの奇跡」と評された。

東京都内の女子校を共学化した渋谷中学高校も進学実績を伸ばし、首都圏の女子校に「共学ブーム」を起こすきっかけとなった。両校の東大合格者は今や毎年計100人を超え、海外の有名大学への進学も早くから支援している。とかく伝統が重視され、閉鎖的とも言われる教育の世界に、田村さんは新風を吹き込み続けてきたのだ。

その経歴も、私学経営者としては異色と言える。東大法学部卒の銀行マンだったが、父の他界に伴い34歳で学園の理事長に就き、校長も兼務してきた。新興の進学校というと、「特別進学クラス」などを設けて一部の生徒を伸ばそうとしたり、「詰め込み型」の学習を徹底したりする手法を思い浮かべるが、どちらも田村さんの目指す教育とはほど遠い。

生徒の自主性を引き出す「自調自考」の理念のもと、高校生になると自分でテーマを選び約1万字の論文を執筆するなど、思考力を高める先進的な教育で知られる。保護者の声に積極的に耳を傾け、生徒たちに校則を考えさせるなど、自由でオープンな学校改革を牽引したのも画期的だ。

近年は、看護人材を育てる医療系大学、保育園と幼稚園の機能を併せ持つ認定こども園の経営なども本格化させて社会のニーズに応えている。