「専門用語もあまり知らないし、お料理はたいてい自己流」と話すのは、テレビや雑誌を通じて数々のアイデア料理を発信している料理愛好家の平野レミさんだ。著書では、子ども時代の味覚の記憶から、両親や夫・和田誠さんとの料理にまつわるおいしい思い出まで、食材への敬意とともに綴っています。そんなレミさんいわく、時間がたってかたくなってしまったフランスパンにも、おいしい食べ方があるそうで――。
パンを買いに行くのが私の役目
小さいころ、パンを買いに行くのが私の役目だった。
自転車こいで二十分くらいのところにパン工場がある。
そこで焼きたてのパンを買う。
大きな工場で、高いところで大勢の人が働いていて、パンが焼けるいい匂いがして、まるで童話の世界みたいだった。
私が小さかったから、工場がうんと大きく、高く見えたのでしょう。
ほかのお客さんがいたという記憶はない。工場に直接買いに行く人はいなかったのに、私の父はパン好きだから、特別に工場に交渉していたのかもしれない。