人間の本質を表現する役者に
宝塚時代から早霧さんに影響を与えている俳優は、ブラッド・ピットとジョニー・デップだという。この2人は二枚目ともてはやされる反面、他人があまりやらない泥臭い役柄を好んで演じるところがある。
「良い面の裏の、汚いもの。人間の本質が滲み出る、そういうもの。私はそれが好きだし、自分も見せたいと思っていた」
その言葉から、だんだんと早霧さんの美しい舞台姿と人間臭い演技がぴたりと表裏に合わさってくる。オスカルの壮絶な死に様。ルパン三世の愛嬌たっぷりの笑顔。怒鳴り散らす探偵ケイレブ。客席をどよめきのような笑いで包んだ佐平次。
幻想の世界の王子様のような宝塚スターでありながら、早霧さんは役柄の心情をリアルに表現することを重視していた。
宝塚時代に培った知識や技術を基本に持ちつつも、今はもっとシンプルなお芝居に挑戦したい。
宝塚の延長線上から離れて、新たな「自分の武器」を探すという目標が早霧さんを駆り立てている。
※本稿は、『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(著:早花 まこ/新潮社)
宝塚という夢の世界と、その後の人生。
元宝塚雪組の著者が徹底取材、涙と希望のノンフィクション!
早霧せいな、仙名彩世、香綾しずる、鳳真由、風馬翔、美城れん、煌月爽矢、夢乃聖夏、咲妃みゆ。トップスターから専科生まで、9名の現役当時の喜びと葛藤を、同じ時代に切磋琢磨した著者だからこそ聞き出せた裏話とともに描き出す。