歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。
4月号の書は「花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに」です
4月号の書は「花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに」です
平安時代の和歌に学ぶ生き方
花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに 小野小町
百人一首にも取り上げられている、小野小町の有名な歌です。長雨が降り、物思いにふけっているうちに、花は色が褪せて散ってしまった。小野小町は絶世の美人だったとされていることから、歳を重ねて自分の容貌が衰えたことを嘆いた歌だとも伝えられてきました。
小野小町は1200年近く前の、平安時代の女性です。小野小町の伝説は後に観阿弥によって能の『 卒都婆小町(そとばこまち) 』となり、昭和の時代に三島由紀夫さんが『近代能楽集』の中の一篇としてすばらしい作品を生み出しました。私も三島さんの『卒塔婆小町』は、何度か舞台で演じております。美しい人であればあるほど、歳を経てからの落差は大きいかもしれません。しかし小野小町は、和歌という文学で永遠の命を得ることができたのです。
この歌の根底には、仏教の「諸行無常」の思想が流れています。諸行無常とは、この世のすべての物事は移ろいゆき、その場にとどまっていないという意味です。これは必ずしも、厭世的な思想ではありません。心持ち次第で何歳になっても自分を変え、成長できるとも解釈できるわけですから。
「老い」は人の定め。表面的な美しさは年月とともに衰えても、知性や教養はむしろ年齢とともに深みを増していくはず。皆さまにはぜひ、年齢を味方につけて、知性と教養に磨きをかけていただきたいと思います。
●今月の書「花の色は移りにけりないたずらにわが身世にふるながめせしまに」