母親と父親に大きな「認識の差」がある
そして何より、これらの手技は育児全体のほんの一部の「切り取り」であり、一番知るべきである「育児の大変さ」を学ぶことはできていない。
結果として、母親の育児の大変さを理解できないで母親を追い込んでしまったり、逆に甘い見積もりで父親自身が育児に参加し、キャパオーバーになって追い込まれたりしているのだ。
この妊娠40週の間の教育・支援機会の違いは、母親と父親に大きな「認識の差」を生んでしまっている。
妊娠中に自分の身体の変化をもって赤ちゃんの存在を感じる母親と、実際に目にするまで赤ちゃんを感じにくい父親では、その「意識の深さ」にどうしても差が生じてしまう。
母親は妊娠中に様々な症状に苦しめられ、同時に赤ちゃんの存在を感じる。お腹は重く、 脚はむくみ、便秘になり、痔にもなりやすい。
胎動を感じ、エコーでその姿を見て、感覚はリアルになっていく。自分の身体の困りごとであるから、調べたことを理解しやすい。妊娠にまつわる症状について詳しくなるし、出産に向けて痛みなどの不安も増えていく。
食事や行動にも気を遣う。「リアルな原体験」があるからこそ、多くのことを調べ、学び、分からないことや不安なことは定期的に専門家である産婦人科医や助産師に聞ける。
父親には、この実感もなければ、専門家に聞ける機会もない。
十分でない「両親教室」で学び、基礎知識もない状態でなんとか調べ、頼れる専門職も知らないまま育児に突入していくのだ。
※本稿は、『ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『ポストイクメンの男性育児-妊娠初期から始まる育業のススメ』(著:平野翔大/中央公論新社)
改正介護・育児休業法により、男性育児の増加が期待される中、男性が育児をするには、様々な問題点が存在し、孤立する父親は少なくない。 本書では、そんな父親たちが抱える悩みの原因から、今からできる解決策、そして今後望まれる社会体制について、 産婦人科医および産業医として妊娠・出産・育児の現場を見てきた男性筆者が綴る1冊。