創業250年を誇る酒蔵「菊の司」の「innocent-無垢-」(撮影◎延 秀隆)

 

GWの5月5日、菅田将暉と役所広司が親子を務める『銀河鉄道の父』が公開される。『銀河鉄道の夜』『雨二モマケズ』などの作者・宮沢賢治の生地・岩手県に、創業250年を誇る酒蔵「菊の司酒造」がある。創業は1772(安永元)年、田沼意次が老中になった年だ。岩手県で最も古い歴史を持つ老舗酒蔵の新たな挑戦とは。(撮影◎延 秀隆)

雫石へ移転、新工場に

現在放映中のNHKの朝ドラ『らんまん』の主人公・槙野万太郎の生家は「峰屋」という酒蔵だが、万太郎のモデルとなった植物学者・牧野富太郎の生家も高知・佐川町の老舗酒蔵「司牡丹酒造」だ。現在、20年熟成の焼酎をもとにクラフトジン「マキノジン」を製造している。

「博物学の巨星」と称される生物学者の南方熊楠も、生家は「世界一統」という和歌山県の酒蔵。農業や漁業、それらを売る仕事が中心の時代、当時の酒蔵は、卓抜した専門技術を必要とする「杜氏」を抱える大企業だったのだろう。資金力とともに科学的な知識を必要とする家業だからこそ、研究者が生まれるのだろうか。

2022年、「菊の司」酒造は酒造りの開始から250年の節目に、新たな一歩を踏み出した。大正末期から盛岡市に本社を構えていたが、新工場建設にあたって雫石へ移転したのだ。宮沢賢治が何度も訪れたという雄大な自然「イーハトーブ」に包まれたこの地は、岩手山や駒ケ岳などの美しい峰々に囲まれ、良質の伏流水が沸いている。