新しい愛の形
最後に映画や写真だけでなく、日本とフランスの流行歌の歌詞の違いについて、触れたい。日本の演歌などは女がいつも耐忍び、男を待っている。逆にシャンソンでは、男が女々しく女に「捨てないでくれ、誰よりも君を愛している」と縋りつく歌詞が多い。ジャック・ブレルがその典型だが、女々しいことこの上ないのに、不思議と聞いていてスカッとする。
男性には、女を支配したい欲望もあるけれど、強い女神のような女性にかしずき、獲物を捧げたいという、源的な欲望も又潜んでいると思う。ブレルはこの「白旗をあげてすがりついた方が、力で支配するより楽だ!!」という男の本音を初めて世間に示した故、男女を超えた、大ヒットを連発するスター歌手になったのだと思う。是非「Ne me quitte pas(すてないで)」を聞いてみてほしい。
ジャック・ラクロワもまた、コゼットの「マドモアゼル」でありつづけたい希望を受け入れ、愛し続けた。まさに「愛はプライドより強い」という証だろう。
彼女の死後、一度ジャックはスタジオを閉め、また、1980年代の使い捨てカメラの流行によりHarcourtの神話が崩れ、衰退したと見えた時もある。しかしそんな「便利さ」にも限界がある。今こそ、手をかけて撮影し、普通のカメラではお目にかかれない、「知らなかった自分」を発見してほしい。そのことが女性に自信を与え、社会を変えていく。男性はそんな女性についていくための新しい愛の形を模索し始める筈だ。