どん底から這い上がる覚悟
向かう電車内、呼吸が乱れ、スマホの文字を打つ手が震える。「鎮まれ、鎮まれ」と言い聞かせるように胸を叩く。
あの方に会えるか会えないか、そんなことはわからない。でも、アポを取って会いにいったら、自分の行動を予告することになる。構えられたら意味がない。その時の私に「前置き」は不要でした。
結果が運命。今動こうと思ったこの直感に乗っかろう。最後に動いてケジメをつけよう。
朝の通勤電車の中に、こんなに緊張している人間が紛れているなんて、誰も思わないよね……。聞こえてないよね? この心臓音。
仕上げたヘアメイクに、容赦なく滝汗が流れる。
油断をするとひるんでしまいそうな心をかき消すようにしながら、何年ぶりかにたどり着いたビルの前で、何度も繰り返す”最後の深呼吸”。
360度どこから相手の視界に入っても、それがその人にとっての第一印象。あの方に「誰だ?」、そう思ってもらえたらいい。
どこに立つべきか。どの角度で待つべきか。どのくらいの時間を覚悟しようか。