井上 ワハハ。主人公より友達のセリフが多いなんて聞いたことないから、おかしいと思った。「定年退食」ってブラックな物語だよね。これが藤子・F・不二雄先生の作品なの? って。

加藤 一言で言えば、現代版『楢山節考』。50年も前に現代社会を見通して描いたのはすごいけど、俺は、まだ物語がSFの域を脱していないから、制作に踏み切ったんだと思う。

井上 「こうならないといい」というアンチテーゼなのかな……。内容もさることながら、見どころの一つに加トちゃんのシリアスな演技があると思う。

加藤 オファーを受けた時、俺はてっきり惚(とぼ)けた顔して、ハゲ頭で登場するもんだと思ったんだけど、違ったのよ。今回はヒョーキンな加藤さんは封印してくださいって言われて不安になった。「ヘックション!」とかやらなくていいのかなって。

井上 きっと制作サイドはギャップを狙ったんじゃない?

加藤 暗さを残しながらも淡々とって言われたんだけど、難しくてねぇ。

井上 誰も知らない加トちゃんを見た気がして、新鮮だったよ。人間としての年輪みたいなものが味わい深くて、これはいい作品になるなって撮影中から確信していた。よくあんな自然体の演技ができるもんだなぁ。

加藤 自分なりに考えて演じてたんだけど、監督が演技しないでくれと言うもんだから。それって結構失礼じゃない?

井上 ワハハ。

加藤 でもこの歳になって、新たな一面を掘り出してもらえるなんて幸せなこと。まだまだ自分にも伸びしろがあるんだって希望が湧いてきた。