現実に失望しているからこそ、夢を求める

ただの女としての期間があまりにも長すぎたため、死にたいと思ったことすらある千影は、死ぬ気になればなんでもできるとばかりに開き直り、新人アイドルとして修業を積むことに決める。1錠飲むと5時間の効き目がある新薬で、アイドルとしての人生を歩み出すのだ。

『女子マンガに答えがある――「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(著:トミヤマ ユキコ/中央公論新社)

「今の自分を180度変えるには 簡単よ/自分が思うのと全部逆のこと選べばいいんだ/私アイドルやる!!」……千影にはトップアイドル目指してがんばってもらいたいが、仮にアイドルとして売れなかったとしても、31歳の頭脳が宿った15歳の身体を生きられただけで十分にスペシャルな経験と言えそうである。

一度魔法にかけられた女は、たとえそれが解けてしまったとしても、ただの女に逆戻りすることはないのだ。

魔法なんか信じない大人だって、魔法みたいな物語を望むことはある。むしろ、魔法なんかないと現実に失望しているからこそ、魔法みたいな物語=都合のいい夢を求めるときがあるんじゃないだろうか。

ただの女をすぐにでも卒業したいと思いながらもなかなか叶わない読者は、こうした物語に慰撫されることで明日への活力を養うのだ。