ただの女でい続けることもできる

ただの女を「すぐに卒業するタイプ」は物語をドライブさせてくれるので大好きなのだが、わたしがつい気になって追いかけてしまうのは、ただの女を「なかなか卒業しないタイプ」である。

華やかさには欠けるかもしれないが、だからこそ現実世界にもいそうなタイプだと言えるし、わたしたちの人生に応用が利きそうだなとも感じる。フィクションの力でいかようにも変わっていけそうなのに、ただの女でい続けているというのも、なんか芯が強そうで推せる。

詳しくは後述するが、このタイプが魔法とまったく縁がないかというと、案外そうでもない。

ただ、その影響がめちゃくちゃ少ないのだ。

なぜ魔法の影響が少ないのか。それは、彼女たちの望む幸福があくまで身の丈サイズだからである。背伸びしない、高望みしない、見栄を張らない。だから魔法なんて必要ない。

それをヒロインのくせに欲がないとかショボいとか言って嗤うのは簡単だ。しかし、別にスペシャルな女を目指さなくてもいいんだ、地味で平凡なまま幸福になる方法はあるんだ、と思うことで救われる人もいるんじゃないだろうか。

田村茜『モブ子の恋』は、まさに身の丈サイズの幸福をめぐる物語。タイトルに「モブ子」とあることからも明らかだが、のっけから「主人公は脇役(モブ)タイプですよ、ただの女なんですよ」と言っているようなものである。

『モブ子の恋(1)』(著:田村茜/コアミックス)

主人公の「田中信子」は、スーパーでアルバイトをする女子大生。信子を「モブ子」と呼び間違えられても「脇役(モブ)かぁ/たしかにそうかも」と思ってしまうような女子だ。「物語で例えるならみんなの中心にいる主人公よりも/すみっこの脇役でいる方が落ち着いてしまう」信子には、キラキラ女子になりたいという欲求がそもそもないのである。