オノマトペの必要性
絵本の作り方もこれと同じ構造をしている。0歳の乳児の言語学習の主眼は、おもに母語の音や韻律の特徴をつかみ、音韻の体系を作り上げることである。0歳児の絵本は意味を伝えるよりも音を楽しむ。
1歳の誕生日を迎える頃から、本格的に単語の意味の学習が始まる。意味の学習を始めたばかりで意味を知っていることばがほとんどない時期は、単語の音と対象の結びつきを覚えるのも簡単ではない。オノマトペの持つ音と意味のつながりが、意味の学習を促す。
2歳近くになると語彙が急速に増え、文の意味の理解ができるようになる。しかし文の中でも動詞の意味の推論はまだ難しい。
そのときに、オノマトペが意味の推論を助けるのである。子どもを育てる親たちも、絵本作家たちも、そのことを直感的に知っていて、子どもの言語の発達段階に合わせ巧みにオノマトペを使って、子どもが必要とする援助を無意識に行っているのだ。
※本稿は、『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)の一部を再編集したものです。
『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』(著:今井むつみ、秋田喜美/中公新書)
日常生活の必需品であり、知性や芸術の源である言語。なぜヒトはことばを持つのか? 子どもはいかにしてことばを覚えるのか? 巨大システムの言語の起源とは? ヒトとAIや動物の違いは? 言語の本質を問うことは、人間とは何かを考えることである。鍵は、オノマトペと、アブダクション(仮説形成)推論という人間特有の学ぶ力だ。認知科学者と言語学者が力を合わせ、言語の誕生と進化の謎を紐解き、ヒトの根源に迫る。