6月号の書は「あなろぐ」です
精神の栄養失調にならないように
最近、「タイパ」という言葉がもてはやされています。タイパとはタイム・パフォーマンスの略、つまり「時間対効果」という意味。短い時間でより大きな効果が得られ、タイパが高いことが、よしとされるそうです。
たとえば若い世代のなかには、テレビ番組や映画を2倍速にして見る人もいるとか。映画は、台詞のない「間」や映像美も含めた総合芸術です。それを単なる「情報」として捉えるとは、嘆かわしい限りです。
こうした傾向は、社会がデジタル化された影響でしょう。最近は、スマホやパソコンを通して大量の情報に追われ、効率を最優先するのが当たり前。それがどんどん加速してきた結果、日本人の精神は栄養失調状態になりつつあります。
精神の栄養失調を改善するには、文化という食糧が必要です。なかでも豊かな栄養となるのが、アナログ文化。私が長らく関わってきた舞台芸術もアナログ文化の最たるものですし、日本は伝統工芸や伝統芸能など、アナログ文化の宝庫です。もちろん、ふだんの趣味でもかまいません。旅も読書も、絵を描いたり展覧会に行ったりするのも、俳句をたしなむのも、アナログでの栄養補給になります。
もっともタイパも、日常生活のなかで進んでしまっている以上、必ずしも悪と思わなくてよいのかもしれません。ものごとを効率化して時間に余裕が生まれたら、その時間でアナログ文化を楽しめばよいでしょう。
最近は、昭和歌謡や昭和の映画、大正ロマン風の着物など、レトロ文化を好む若い人も増えているようです。懐古風情のあるクリームソーダを出す喫茶店も人気。たぶん本能的に、ゆっくり流れる時間や精神の栄養を求めているのでしょう。みなさんも栄養失調にならないよう、意識的に「アナログ」を日々の暮らしに取り入れてみませんか。
●今月の書「あなろぐ」