身近に感じられる女性たちの成功譚

そうした、一見謙虚にも見える彼女たちの姿勢は、「そのほうが女性として好ましい」という古い価値観とも無関係ではないはず。社会が求める〈女らしさ〉を自身と照らし合わせる慣習は、根強く残っている気がします。

また女性の場合、そもそも自身の力で人生を切り拓いた人たちのサンプルが少なすぎるんですね。男性の成功譚は世に溢れているのに、女性のそれはあまりない。

キュリー夫人やナイチンゲールのような遠い世界の偉人ではなく、身近に感じられる女性たちの、自らの力で自分の居場所を作った話を残したい。そんな思いで足掛け6年間続けた雑誌連載をまとめたのが本書です。

登場するのは、美容家・クリエイティブディレクターの君島十和子さん、スタイリングディレクターの大草直子さん、料理研究家・食プロデューサーの浜内千波さんなど、13名の私が好きな方々。

それぞれの方の、過去に取材された記事や著書、週刊誌のゴシップ記事にまで目を通してインタビューに臨みました。けれど、実際にご本人の言葉で聞くと、「そんなふうに世の中を見ていたのか」「意外にへこたれていなかったんだな」と、あらためて知ることも多かったですね。

私が幼少期からその作品に親しんできた、漫画家の一条ゆかりさんのご自宅にお邪魔した時は、手ずからお茶を淹れてくださって。唯一無二の存在として商業漫画界で成功を掴むまでのストーリーが、胸に響きました。