ミクログリアの活性化とうつ様行動の因果関係
私たちは、慢性ストレスを与えたマウス実験で、その仮説を検証することにしました。
TLRにはいくつかのタイプがあり、その中でTLR2とTLR4が重要なはたらきをします。
遺伝子操作によって、脳全域のミクログリアでTLR2とTLR4の両方をはたらかなくしたノックアウトマウスをつくりました。このマウスに慢性ストレスを与えても、うつ様行動はまったく現れません。
では、ストレスによりミクログリアの活性化は起きているのでしょうか。遺伝子操作していない野生型マウスに慢性ストレスを与えると、内側前頭前野でミクログリアの活性化が起きました。
しかし、TLR2とTLR4のノックアウトでは、慢性ストレスを与えてもミクログリアの活性化は起きません。
さらに私たちは、内側前頭前野のミクログリアだけでTLR2とTLR4がはたらかなくしたマウスを、とても苦労して独自に開発しました。
そのマウスに慢性ストレスを与えてもミクログリアの活性化は見られず、うつ様行動が減りました。
この実験結果は、慢性ストレスによる内側前頭前野のミクログリアの活性化とうつ様行動にはたしかに因果関係があることを示しています。
うつ病には、やる気に関係する側坐核(そくざかく)という脳領域も関係していると言われています。
しかし慢性ストレスを与えた野生型マウスの側坐核のミクログリアは活性化していませんでした。
慢性ストレスによるミクログリアの活性化は、内側前頭前野で選択的に起きるのです。それがどのような仕組みで起きるのかが大きな謎です。
慢性ストレスにより内側前頭前野にあるどの細胞がダメージ関連分子をつくり出すのか、TLR2とTLR4がどのようなダメージ関連分子を捕まえてミクログリアが活性化するのか、それが特異的な活性化の謎を解く鍵となると考えられています。
【著:古屋敷智之/編:林(高木)朗子・加藤忠史】
※本稿は、『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(講談社ブルーバックス)の一部を再編集したものです。
『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(著:林(高木)朗子・加藤忠史/講談社ブルーバックス)
うつ病、自閉スペクトラム症・ADHDなどの発達障害、PTSD、統合失調症、双極性障害…多くの現代人を苦しめる「心の病」は、脳のちょっとした変化から生まれます。
誰にでも起こりうるこの病は、何が原因で、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか? 様々な角度から精神疾患の解明に挑む研究者たちが、研究の最前線をわかりやすく解説。