デイサービスの看護師さんから電話

病院に入院を断られた2日後、父は朝からデイサービスに行き、私は道央の美唄に日帰り出張をしていた。

体力の落ちている父が、デイサービスで普通に過ごせているだろうかと気になってしょうがない。スマホの音は鳴らないようにして、会議中も見えるところに置き、画面にデイサービスからの着信表示があったら、すぐに出ようと思っていた。

不安は的中した。急いで会議室の外に出て電話を耳に当てると、デイサービスの看護師さんが父の様子を話し始めた。

「午前中にお風呂に入ったのですが、お昼ご飯はまったく食べず、ぐったりしていらっしゃいます。最高血圧が60しかありません…‥」

飛んで迎えに行きたいところだが、美唄から札幌に戻るには、車で2時間近くかかる。私の事情を聞くと、看護師さんは言った。

「意識はしっかりしているので、急いでお迎えに来なくても大丈夫だと思いますよ」

その後30分おきくらいに何度か電話がかかってきて、血圧の報告を受けた。上が、70、80、90……。

「血圧が正常に近づいてきたし、経口補水液を頑張って飲んでくれて、顔色が良くなってきました。時間になったら、いつもどおりにご自宅までお送りします」

もし私より先に父が帰宅した場合、家の中に一緒に入って座るのを見届けてもらいたいと、デイサービスの人にお願いをした。

仕事を途中で切り上げた私が家に着いたのは午後5時。父は帽子をかぶったまま、ソファに座って目を閉じている。

いつもなら父は帰宅すると、帽子を所定の位置に掛け、手洗いとうがいをすませて、寝室にあるパソコンでニュースを見るのに、今日は動こうとしない。

私は父の肩を揺すって言った。

「パパ、寝るなら、パジャマに着替えてベッドで寝ようよ」

父は薄目を開けて、「大丈夫だ」とつぶやく。私は父のシャツをめくって腕を出し、血圧を測った。最高血圧が100まで上がっているのを見てほっとした。

イメージ(写真提供:Photo AC)

その後も根気よく声をかけ続けると、父は1時間後に麦茶をコップ半分ほど飲んでくれた。

「ベッドで寝るほうが楽だから、一緒に移動しようか」

父の脇の下に私の腕を差し込んで立ち上がらせると、やっと目が覚めたらしい。

「一人で歩けるからいい」

私の手を払いのけるような仕草をして、バランスを取ろうとしているが、父の体は右に傾いていて今にも転びそうだ。危なっかしくて見ていられない。倒れた時に受け止められるように、私はぴったり父の後ろについて、寝室に移動した。父は倒れ込むように、洋服のままベッドに横になった。

「疲れたから少し寝る。電気を消していってくれ」

(つづく)

◆本連載は、2024年2月21日に電子書籍・アマゾンPODで刊行されました