「いざ一歩を踏み出すと決めたとたん、一気に心が晴れました。不思議ですよね」(撮影:藤澤靖子)
今年、33年間勤めたNHKを辞めてフリーのアナウンサーとなった武田真一さん。その直後、4月からスタートした日本テレビの朝の情報番組『DayDay.』でMCに抜擢され、活躍中です。武田さんを転身に踏み切らせたものは何だったのでしょうか(構成=平林理恵 撮影=藤澤靖子)

自分を変えてくれた大阪転勤

「どうしてNHKを辞めたの?」とよく聞かれます。30年以上勤めたので、もちろん大きな一歩ではありました。しかし、自分の進退について、現状維持でいいのかどうか、ここ数年、漠然と考えていたのです。だから実は、周りが思っているほど大きな決断ではありませんでした。

定年まであと数年となり、会社員人生の「旅の終わり」が迫っている。組織人として管理業務を担うべき年齢でもありました。けれど、自分がアナウンサー以外の仕事をしている姿がうまく思い描けなかった。そんな時、担当していたある番組を通して、自分を見つめ直し、本当の気持ちに気づくことができたのです。

いざ一歩を踏み出すと決めたとたん、一気に心が晴れました。不思議ですよね。5年後の自分が見えないという点では、何ら変わらないのに。先が見えないことを不安と捉えるのではなく、未知なるものへのワクワク感に置き換わったのです。

大きなきっかけをくれた番組というのは、最後の勤務地となった大阪で担当した『ニュースきん5時』。

転勤の直前まで担当していた『クローズアップ現代+』という番組が、僕の中で特別だっただけに、大阪行きを言い渡された時は正直少しだけ落胆しました。『クロ現』では、社会が抱えている大きな問題を切り取ってお伝えしてきたのですが、伝える側の僕自身も、放送を重ねるごとにさまざまな気づきをもらい、成長できたと感じられる番組でした。

一方、その直後に担当した『ニュースきん5時』は、地域の課題や多様な取り組みを柔らかく伝えるニュース番組。『クロ現』と比べるとより身近な話題を扱っていましたが、その分切実さがあったのです。