なぜ私は、病院で点滴なんか打ってるの?

舞台を降板するにあたっては、関係者の皆さまに大変なご迷惑をおかけしました。すべて事務所のスタッフが対応してくれましたが、私には一切知らせずに動いてくれたため、私は舞台降板が報道されたことすら知らなかったのです。

病状は深刻だったものの、当の私自身にそこまでの自覚はなく。入院当日も「今のうちに買っておこう」と、病院の売店で雑誌やお菓子などを買いこんで部屋に戻ってきたら、看護師さんに「何やってるんですか! あなたは絶対安静なんですよ!? 病室から一歩も出ないでください!」と叱られて。とにかく動いたり、何かに集中したり、疲れることは一切しちゃダメなんです。だから雑誌やテレビもおすすめできないと。点滴を打ちながら、ボーッとベッドで寝ているしかない。

健康なら「退屈じゃない?」と思いますが、その時の私にはそれがちょうど良かった。やっぱり舞台の稽古で、相当疲労がたまっていたんですね。体が鉛のように重く、だるかったので、面会すらできない状況にあっても、退屈という意識はありませんでした。

唯一気になったのが、病室の壁にあるカレンダーです。日付を見ながら「今日は公演初日かあ。なぜ私は、独りで点滴なんか打ってるんだろう? 本当なら素敵な衣装を着て、お客様の前でミュージカルを披露していたはずなのに……」とグルグル考えてしまって。看護師さんに、「申し訳ないですが外してください」と言って撤去してもらいました。

入院は40日に及び、退院直前になってようやく車いすでのお散歩が許可されました。退院してからも週に一度のペースで通院。お散歩も「今週は10分、検査の結果が良ければ翌週は20分、悪くなったら、また少し減らしていきましょう」という感じで、一歩進んで二歩下がる ような状態でした。その後は1年間自宅で療養し、徐々に仕事にも復帰。現在まで体調は安定していますがウィルスはなくならないので、引き続き定期的に検査を受けています。