1970年代に洒落た画風で女性誌を彩ったイラストレーターにして、80冊以上もの絵本を世に送り出してきた飯野和好さん。76歳の今、そのジグザグ半生を振り返ります(構成:山田真理 撮影:大河内禎)
「あさたろう」に 黒柳徹子さんの反応は
その後も忍者を主人公にしたシリーズなどを描くうち、幼い頃に映画や旅芸人の芝居で観た股旅ものを絵本にしてみようと思いつき、学習雑誌に連載したのが『ねぎぼうずのあさたろう』だった。
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「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズは、ねぎ畑から飛び出したあさたろうを中心に野菜たちが大活躍する。上/『ねぎぼうずのあさたろう その1』(福音館書店、1999年) 下/黒柳徹子さんをモデルに生まれた女親分「火の玉おてつ」。『同 その4』(2003年)より
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あさたろうが草津から故郷・秩父を目指すシーンで、シリーズは2020年に完結しているが、今も飯野さんのもとへは「中山道へんはいつ出るのですか」という幼い字のファンレターが届く
「自分でも面白くできたと思ったので、描き足したりして絵本に作り直しました。子ども時代に好きだった浪曲を取り入れようと、二代目広沢虎造のカセットを買ったりして」
ところが、連載してくれた出版社をはじめ、「浪曲なんて今の子どもたちはわからない」「渡世人とはつまりヤクザでしょう」と、どこも門前払い。やっと1社が「2冊だけなら」と出版してくれた「あさたろう」はその後、思いもよらない広がりをみせていく。
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旅芸人の世界や自然とともに生きる暮らしなど「失われつつあるもの」を絵本で伝えたいと語る飯野さん。上/幼い頃に観た芝居小屋を再現した『つぎのかたどうぞ しおきちくんのたびにっき』(小学館、2014年) 下/里山の暮らしを生き生きと描いた『みずくみに』(小峰書店、2014年)