厚生労働省によると、認知症の患者は2025年に約700万人まで達するとされています。一方で、家族による介護が始まったとき、悩まされがちなのが認知症の人の「かたくなさ」です。頑固さや怒りが収まれば、ずっと介護がラクになるのに、と介護者が思うこともしばしば。しかし「かたくなになる理由や道理を理解して受けとめられれば、驚くほど落ち着いてくれる」と、デイサービス経営者・坂本さん、訪問介護ヘルパー・藤原さんはいいます。認知症の人の気持ちを逆なでせず、日々穏やかに過ごしてもらえるその接し方とは?
「自分の物を盗んだ」と疑われる
同居の母に「しまっておいたお金がなくなった」「あなたと私しかいないんだから、あなたが盗ったに違いない」と娘が疑われるようになった。
【坂本】やさしい言葉をかけて関係改善するのがカギ
きっとお母さんは、何か心配事があって、お金をいつもと別の場所へ隠した(しまい込んだ)ことを忘れ、「なくしたのは自分かもしれない」と自覚できず、同居の娘を疑うしかなかったのだと想像できます。
また、日頃から親子同士のいさかいが多ければ、「娘からの仕返しかも……」とお母さんの疑いを強めてしまったのかもしれません。
この場合、親子仲の改善がカギになります。関わるのがつらくて距離を置いてしまうのは、相手を寂しくさせて不信感を招き、逆効果です。
あえてアイコンタクト、身体に軽く触れる、「寒くない?」などの少しの声かけを頻繁にしてみてください。すると安心感が増え、被害妄想もやわらぐはずです。「いい人メソッド」を活用するのも有効です。
そして、これがポイントですが、
「お母さん、お金は足りてる? 必要だったらいつでも言ってね」
と声かけしましょう。娘からお金の心配をしてくれるのであれば……と容疑が晴れるはずです。
被害妄想は認知症介護でとくに困る症状のひとつです。その大きな原因には「心がヒマな状態である」ことがあります。
何の役割も先の予定もなく、刺激のない日常を過ごしている人は、他に考えることがなく、先の心配事や過去のいやなことばかり思い出します。ただでさえ不安を抱えやすい、認知症の人の頭の中は心配事100%になる……。これが被害妄想のもとです。
逆に、カレンダーに予定が書き込まれ、いつも誰かに頼られる役割を持つようになると、被害妄想は減っていきます。「頼られてばかりで困っちゃうわ♪」と、本人にとって心地良い忙しさをつくることは、被害妄想の防止に効果的です。