私はどうも酒好きの父の遺伝子を多分に受け継いだらしい。私が小さい頃、父は隣村の職場まで一日に数本しかない汽車で通勤していた。居酒屋も食堂もない村で、唯一酒を置いている雑貨屋さんの店主と知り合いになり、その店に一升瓶を買い置きして、コップ酒を立ち飲みしてから帰りの汽車に乗る毎日だった。

遠方に出張した時はその地で終電まで飲み、最寄り駅を乗り過ごして、終着駅の待合室で夜を明かす始末。「今日は出張だから危ないな」と思った時は、母が子どもたちを最寄り駅まで迎えに行かせる。兄、姉たちはホームまで出て、車両の窓をのぞき、父親が寝ていないか探した。

父は一度、酔いつぶれたあげく仕事をサボって母に激怒されたこともあった。朝、終着駅で目覚めた父。そのまま始発で帰り、すぐに出勤すればいいものを、帰宅途中で下車して、立ち食いソバ屋が開くのを待って食べて帰ってきたのだ。

母は背中を丸めて座る父の前に仁王立ちになり、「いまからでも仕事に行くべきだ」と、こんこんと説教した。

愉快な飲み方で、人にも好かれた父だったが、幼い私には、酔うと普段の姿と変わってしまう父が嫌で、母に怒られているのを見るのも悲しかった。だから、絶対自分は酒飲みにはなるまいと誓ったはずなのに……。