研究は「現地」でこそ進む
もう一つよけいなことですが、義智が国書を改竄したことは、少し後に幕府にばれています。というのも藩主と家老とが不和になり、家老が、藩主の先祖である義智は幕府を騙したのですよ!と通報したのです。
なお現代、国書を改竄なんてできませんし、したとすればとんでもない重罪です。スパイは殺人より重罪なのですから。
ところが幕府は宗氏を全く咎めませんでした。藩主家の罪を暴いた家老も、罪には問われましたが、切腹などの重い罪は科せられませんでした。
この幕府の態度については、どう評価すべきなのか。
ともあれ、やはり、研究は研究室の机の上ではなく、資料が豊富な現地でこそ進むのでしょう。今後の名護屋城博物館の取り組みに注目し、ますます期待したいと思います。
『「将軍」の日本史』(著:本郷和人/中公新書ラクレ)
幕府のトップとして武士を率いる「将軍」。源頼朝や徳川家康のように権威・権力を兼ね備え、強力なリーダーシップを発揮した大物だけではない。この国には、くじ引きで選ばれた将軍、子どもが50人いた「オットセイ将軍」、何もしなかったひ弱な将軍もいたのだ。そもそも将軍は誰が決めるのか、何をするのか。おなじみ本郷教授が、時代ごとに区分けされがちなアカデミズムの壁を乗り越えて日本の権力構造の謎に挑む、オドロキの将軍論。