「私自身、ボクシングに打ち込むようになって初めて、『24時間お笑いのことだけ考えろ。死ぬ気でやれ』という山ちゃんの言葉の意味に、気がつくことができたのです」

もういっぺん山ちゃんと漫才を

実際、もしあの時ボクシングにのめり込まなかったら、私は今、芸能界にいないかもしれない。ありがたくも下積みがほとんどなく売れたけれど、ちやほやしてもらえる時期はすぐに終わる。あのまま続けていたら、南海キャンディーズは今のようにコンビとしてちゃんと機能できていなかったと思います。

というのも、М―1初出場で注目されてからの十数年、相方の山ちゃん(山里亮太さん)と私はシャレにならないくらい不仲やったんです。楽屋でもまったくしゃべらないし、関わりを持つことすらイヤ。楽屋でも対角線上に座っていたくらい。

ご存じの通り、山ちゃんは、嫉妬深くて野心家で、人の悪口が大好きという、かなり面倒な性格です(笑)。作るネタは抜群に面白いけれど、お笑いにストイックすぎて、「体の向きはこの角度」「間合いを0.2秒延ばして」といちいち要求が細かい。

山ちゃんは山ちゃんで、私が真剣に笑いと向き合っていない、ちゃらちゃら女優なんてしやがってと苛立っていた。だからボクシングに打ち込むことにも、複雑な気持ちやったと思う。だけどオリンピックを目指した頃から、「こんなに頑張れる人なんだ」と少しは見直してくれたんちゃうかな? その後は応援してくれるようになりました。

私自身、ボクシングに打ち込むようになって初めて、「24時間お笑いのことだけ考えろ。死ぬ気でやれ」という山ちゃんの言葉の意味に、気がつくことができたのです。

36歳でボクシングを引退すると決めた時、メールで報告した私に山ちゃんは「おかえり」という返事をくれました。そんな温かい言葉を、あの底意地の悪い男が? 驚いたものの、もういっぺんこの相方と漫才で頑張ってみよう。もっと人を笑わせたい。そんな気持ちがむくむくと湧いてきたのを覚えています。

それから2度のМ―1を経て、結成15年目の2018年には、南海キャンディーズとして初の単独ライブを開催しました。作り込んだネタだけでなく、どんどん脱線してアドリブで展開していく笑いにも挑戦。

そんなふうにネタで遊ぶには、相手に信頼がないとでけへん。気づけば、山ちゃんは仲間であり、家族のような存在になっていました。

そんな山ちゃんと、やはり私の大事な親友である蒼井優ちゃんを引き合わせたのは私です。仲良しになってくれたらと思っていたけれど、まさか2人が結婚するなんて、縁ってわからないものやな。