個人の余ったお金で子どもたちに金銭的サポートを

実は、一つ日本政府に言いたいことがあります。

日本には、お金持ちがいっぱいいて、個人のお金が余っているのです。そのお金をちょっとでも子どもたちのために、スポーツに限らず、芸術でもいいし、学問でもいい、何かに使ってくれれば、政府のお金を、そんなに使わなくてもいいのではと私は思います。

文化庁よりも、スポーツ庁よりも、個人のお金持ちのほうがきっとお金を出せますよ。ただ、なぜそれをやらないか。私みたいに、自分が面白いからやっているならやれますけど、もしそれをやっても、金銭的メリットは何にもないからです。

子どもたちのサポートにお金を出したら、相続税が減りますよと言ったら、みんなやりますよ。

人はみんな死ぬのですから、財産を国に半分ごっそり相続税に取られて、何に使われるか分からないよりも、自分がやりたいことで子どもたちを金銭的にサポートして、自分の名前が残せたほうが断然いいですね。

残念ながら自由経済では、お金がなかったらダメですから、それこそファンドがあって、子どもたちをサポートしたり、アントレプレナー(起業家)の支援をしたり、そういうことができればいいのかもしれません。私はそのほうがよほど気持ちがいいと思います。

今も私は、毎年夏に開催される全国小学生テニス大会や、大阪での全日本ジュニアを見に行くことを楽しみにしています。私は暑いのが好きだから、朝から晩まで炎天下にいても平気です。寒いのはだめです。

盛田ファンドが始まってもう20年以上経ちますが、毎年楽しみですし、飽きないです。プロ選手の試合を見ているよりよっぽど面白い。子どもたちは、1年で成長し変わりますから。

確かに子どもたちにお金を使っていますが、よその子のためにお金を使っている気はないのです。

本当なら自分にしかできないことを自身で頑張り、自分の理想を追い求め、自ら実現させたいところですが、ファンドの子どもたちが、自分の分身のようになってやってくれている。だから、自分のためにお金を使っているのと同じようなものだと捉えています。

スポーツエージェンシーであるIMG(International Management Group)を創設したマーク・マコーマックが生きていてくれたら、もっと面白かったと思うのですが、残念ながら(2003年に72歳で)亡くなってしまいました。

でも、盛田ファンドを始めた時の気持ちは全然揺るぎません。今思えば、テニスが、日本ではあまり強くなかったから良かったのかもしれないです。

日本の育成強化システムからすごい選手がどんどん出ていたら、私が入る隙間はなかったはずです。

※本稿は、『人の力を活かすリーダーシップ: ソニー躍進を支えた激動の47年間 錦織圭を育てた充実のリタイア後』(ワン・パブリッシング)の一部を再編集したものです。


人の力を活かすリーダーシップ: ソニー躍進を支えた激動の47年間 錦織圭を育てた充実のリタイア後』(著:盛田正明/ワン・パブリッシング)

井深大、兄盛田昭夫らと黎明期からソニーの成長を牽引した盛田正明氏初の著書。アメリカでのグローバル市場の開拓、ソニー生命保険での金融業界参入、そしてソニーのリタイア後に設立し錦織圭を輩出した盛田正明テニス・ファンドの独自の運営など、人の力を巧みにいかすマネジメントスタイルで数々の実績を残してきた半生を、知られざるエピソードを交えながらたどる。