(取材・文・構成=かわむらあみり)
三郎の部分を大事にした藤原道長像
藤原道長を演じるにあたって、当初は世間的に思われている“ちょっとヒールな要素のある道長像”よりも、かなり“人間味あふれる人物像”として、道長役をスタートしました。藤原兼家(段田安則)を父に持ち、長兄・道隆(井浦新)、次兄・道兼(玉置玲央)は積極的に政治に関わっているけれど、三男坊の道長はそんなに前のめりではない。幼い頃は兄の陰で目立たず、のんびり屋な性格という、三郎としての部分が大事だと感じています。
最初の打ち合わせの時に、新たな道長像を描きたい、と言われて。さらに大石静さんが書いてこられる台本は、『光る君へ』の中での道長はこういう人である、という説得力はもちろん、非常にしっかりとした強度がありました。そこを最初から信頼して、100%その道長像をやることを出発点にしています。世間ではもっと道長は政治的な思惑があり、露骨に動いていた人物だと考える方もいるかもしれませんが、この作品において道長は、とにかく自分の家族を政(まつりごと)には絶対関わらせたくないというところから入っていて。
ただ、陰陽師の安倍晴明(ユースケ・サンタマリア)の進言や、姉の詮子(吉田羊)から「あなたも血を流すべきよ」というようなことを言われてやるとことになったからには、とにかく娘に幸せになってほしいと願う、地に足のついた思いが道長にはあります。外から見たらひどいことをやっているように見えるかもしれないですが、本人は必死に幸せを願っている、真っ直ぐな人というだけなんですよね。
今(取材は7月下旬)は、いよいよ最終章に入る手前のところまで、撮影が進んでいます。中盤では、心配してくれていた姉の詮子までいなくなって、道長は一人になっていろいろな悩み方をしていてとにかく家族の幸せとまひろとの約束を果たすために、道長はまだ悩んでいますね(笑)。最終章の入り口を今撮影していて思うことは、最初に感じていた“三郎としての人間性”のようなところが、より大事だということです。
というのも、道長は政治のトップであって、意見しなければいけなかったり、さまざまな謀(はかりごと)をしなければいけなかったり。今まで演じてきた道長とは、少し乖離した部分が現れてきていたのを自分でも肌で感じるんです。そうした時に、道長は今この地位にいるけれども、もともとは三郎である、というところでやはり変わらないのだと。最近になって、よりそのことを意識するようになりました。