(撮影:本社・武田裕介)
2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で作家デビュー、2022年『塞王の楯』で第166回直木賞を受賞した今村翔吾さん。歴史小説家として活躍する中、近年では書店経営を始めて話題に。今回は「世界の中の日本」をテーマに、元寇を舞台に描いた今村さんの最新作『海を破る者』について伺いました。今作で描きたかったもう一つのテーマとは――(構成:山田真理 撮影:本社・武田裕介)

現実のニュースに悩んだ結末

2年前に直木賞を受賞したとき、本に興味のない人も巻き込みたくて、記者会見場まで人力車で向かいました。小学生の頃から池波正太郎さんや司馬遼太郎さんの作品を愛読して、僕も歴史小説作家になりましたが、本のよさをもっと多くの人に伝えるべく、最近は書店経営も始めて。ニュース映像を見て、「オモロイことする作家さんだな」と思ってくれた方もいらっしゃるかもしれません。

今回の小説で挑戦したかったのは、「世界の中の日本」。学校では「日本史/世界史」と分けて習うけれど、「世界」に日本も含まれているのにおかしい、と感じてきたんです。

昔から、歴史小説にまつわる史料を調べるのも好きでした。だから僕の頭には、主要な事件や人物の情報がデータベース化されています。そこから書きたいテーマに最適なものを選ぶのが僕のやり方。今回は、“世界”が日本に攻め入ってきた「元寇(げんこう)」を選んだのです。

全盛期の元朝は、西は現在のポーランドやトルコ、東は中国や朝鮮半島まで領土を拡大していました。次の標的となった日本は島国。騎馬民族である元は地上では敵知らずだが海戦は弱かった、という話や、元寇を戦った河野水軍を率いた武将・河野六郎通有(みちあり)のことを調べるうち、想像が膨らみました。

六郎は文永の役で「後ろ築地」と呼ばれる特殊な陣で元軍を迎え撃ち、ほかの御家人から「勇敢だ」と称えられる一方、「そうまでして手柄が欲しいのか」と罵られもした。六郎が危険な決断をするまでに、どのような出会いと経緯があったのか。脇役として、異国から売られてきた金髪碧眼の女性・令那(れいな)と、彼女を守る高麗人の繁(はん)を加えて物語を組み立てました。