「死んだらどうなるのか」「天国はあるのか」。古来から私たちは、死や来世、不老長寿を語りついできました。謎に迫る大きな鍵になるのが「宗教」です。日本やギリシアの神話、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から、仏教、ヒンドゥー教、そして儒教、神道まで。死をめぐる諸宗教の神話・教え・思想を歴史的に通覧した、宗教学者・中村圭志氏が綴る『死とは何かーー宗教が挑んできた人生最後の謎』より一部を抜粋して紹介します。
はっきりしない来世「日本神話の黄泉と常世」
『古事記』や『日本書紀』で知られる日本の古代世界は、古代といってもかなり遅いもので、 紀元前はるか昔に都市化を果たしたユーラシアの諸文明と比べるとずいぶん遅れており、ほとんど中世と言っていい新しさである。
なにせ日本列島はユーラシアの東外れの孤島である。
長い間ずっと辺境であり続けたので、おかげでギリシア神話や旧約神話と比べられるほどの古い神話的モチーフが、八世紀になっても残っていたわけだ。
少なくとも、仏教、キリスト 教などの古典的宗教の倫理的で観念的な来世観に染まっていない原初の素朴な思考を残して いると見られるのである。