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85歳までは車であちこち出かけていたダイアモンド・ユカイさんの母。説得を始めてから免許返納に至るまで5年かかったという、ロックンローラー親子のバトルはいかに──(構成=平林理恵 撮影=大河内禎)
「あんた、何言ってるの?」強く正しいおふくろ
うちは両親とも公務員、自分は共働き家庭の一人っ子として育ちました。親父は体が弱いながら、遠い職場まで通い家族のために頑張ってくれていたのですが、オレが21歳の時に亡くなりました。一方おふくろはバリバリ働き、役所では課長にまで昇進して、キャリアウーマンの走りだった。
四十何年勤め上げて定年退職してからは、もう羽を伸ばしちゃってね。まさに第二の人生を謳歌していました。家庭菜園を始め、そこで育てた野菜を使ってむちゃくちゃ手の込んだ料理を作る、世界各国を旅行する、行きたい所へはどこにでも自分で車を運転して出かける……。
おふくろは、2年前に90歳で亡くなりましたが、その5年ほど前まで、ガンガン車を乗り回していたんです。食事、買い物、通院……、用事がてらドライブを楽しんでいましたね。かかりつけの病院まで1時間くらいかかるんだけど、それもレジャー気分。友達がたくさんいて、そりゃあ楽しそうだった。
健康で病気知らず。高齢になってからも高血圧気味であること以外どこも悪いところはなかった。しかも体力があり、運動神経は抜群。肝っ玉母さんというか、鉄人だな。鉄人と呼ぶにふさわしい人だった。
今思えば、おふくろのこの鉄人っぷりに、甘えていたところがあったのかもしれません。高齢の母親が一人暮らしをしているのだから、もっと早くから細かく気を配らなければいけなかったのに。「あれ、大丈夫かな?」──不安を感じた時、おふくろは70代後半でした。
ある日、実家に帰ってふと見ると、車が一部へこんでいたんです。どうしたのかと聞いたら、「ぶつけられた」って。「ん?」と引っかかった。もしかしたら、自分でぶつけたんじゃないかという考えが頭をよぎった。とはいえ、おふくろは元気だったし、運転はまったく危なげない。疑う根拠は何もなかったんだけど、なんとなく心がざわざわしたんですね。
で、たまたまその頃に、高齢者が起こした交通事故がニュースになっていたので、それを引き合いに、「そろそろ免許は返納していいんじゃない?」と言ってみたのです。実家は最寄り駅まで徒歩15~20分、別に車がなくて困るということはありません。そのあたりも続けて伝えました。
おふくろは「あんた、何言ってるの?」と一言。「けっ」という感じでしたね。「ロックかなんか知らないけど、散々迷惑をかけてきたドラ息子のくせに、私にものを言うつもり?」とは言わなかったけど、言われたような気がした(笑)。これには弱いんです。オレ、ホントに心配ばかりかけてきたし、おふくろはいつだって強く正しく、自分はどちらかというとマザコンだったから。(笑)